Passive-Designにおける
つのデザイン

パッシブデザインとは 右記の5つのデザインを、適切に建物に組み込む設計技術です。様々なところでこれらのデザインは対立することがあるため、いかにうまくその対立を解消するかがパッシブデザインの最大のポイントになります。

断熱性能を高めることは建物全体の保湿性能を向上させ、様々なメリットを与えてくれます。このメリットはとても大きく、逆に一定の断熱性能を確保できないときのデメリットがとても大きいため、建物に一定以上の断熱性能を組み込むことがPassive-Design Houseのベースをつくることになります。

断熱性能や保湿性能を表す指標

建物全体の断熱性能の指標として「UA値」が、また断熱性能も含んだ保湿性能の指標として「Q値」があり、実際にその建物がどの程度の断熱性能を持っているかを知るには、こうした指標を見ることが確実です。以下に地域ごとの基準値(上限値)を示します。

地域12345678
UA値の基準(W/㎡K)0.460.460.560.750.870.870.87
Q値の基準(W/㎡K)1.61.61.92.42.72.72.7

断熱性能(保湿性能)を高めることによる冬のメリット

この「基準値」の0.7掛け程度に断熱性能(保湿性能)を高めると、満足度の高い住まいを目指すことができ、冬のメリットも高いレベルで実現できるはずです。

  • 少ない熱で部屋を暖めることができる(省エネ性)。また暖房していなくても室温が一定に保たれる(快適性、健康性)。
  • 暖房している部屋と暖房していない部屋との温度差が小さくなる(快適性、健康性)
  • 窓、床、壁などの表面温度が高く保たれる(快適性)。
屋根の断熱

壁面の断熱

適切に断熱材を選んで施工することで、建物の保湿性が高まり、冬期の大きなメリットが得られます。

夏の暑い日差しを室内に入れないための日射遮へいは、夏期における快適と省エネを実現させるための基本中の基本です。最近になって断熱性はかなり注目されるようになってきましたが、日射遮へい性能についてはまだまだ理解や工夫が足らないように思えます。とくに「断熱性能(保湿性能)を高めていくと、夏の室内が少しづつ暑くなっていく」という現象が起きるのですが、この問題を解消するには日射遮へいのデザインをしっかり考えることが何より重要です。

窓周りの日射遮へい

平均的な性能の建物でレースカーテンを引く程度の日除けをしている状況では、夏に室内に入ってくる日射熱のうち70%程度が「窓から」になっています。したがって、この対策を考えないと確実な日射遮へいはできません。ポイントは「庇や軒を考える」「窓の外側に日除け装置を設ける」というところです。
またこうしたものは外観のデザインを決めることにもなるので、設計段階でしっかりと検討します。

とくに南側の庇や軒は日射遮へい効果が高くなります。(撮影:岩為)

ルーバー雨戸や外付けブラインド。日射遮へいしながら風を通すことができ、外からの視線も遮ることができます。

シェード。洋風の外観に合う装置です。

その他の日射遮へい

窓周りの日射遮へいを十分に検討することを大前提として、「日射が反射しやすい屋根や外壁の仕上げにする」「通気層を設ける」「屋根や天井の断熱性能を上げる」「庭の植栽を活用する」なども一定の効果があります。

落葉広葉樹や「緑のカテーン」は、夏には日差しを遮り、冬には日差しを入れてくれる自然のパッシブ装置です。
屋根や外壁に日射を反射しやすい素材を使うのも一定の効果があります。
すだれ。和風の外観に合う装置です。安価なのも魅力

レベルの高い通風のデザインを進めていくときのキーワードとして挙げられるのが「卓越風向」「立体通風」「高窓」「ウィンドキャッチャー」です。建物の中での風の流れを予測しながら窓の配置や大きさを考えることを基本に、こうしたキーワードを建物に組み込むことがポイントになります。

最上階の上部に設ける「高窓」。建物に溜まった熱を排出させる効果は劇的です。
袖壁のデザインを工夫して、風をつかまえて流れを変え、室内へと取り入れる「ウィンドキャッチャー」に。
吹き抜けを通じて上下に風を通す「立体通風」。

昼光利用のデザインが目指すのは、昼間に人工照明を点けなくても過ごせるようにすることです。そのときの基本は「昼間に長く過ごす部屋には2面に窓を設ける」「それ以外の部屋には少なくとも1面に窓を設ける」ということなのですが、他にも様々な”技”があります。

室内ドアを透明や半透明にして、光を共有る”技”。
高窓から光を落とす”技”。
光を通す欄間にして、隣の部屋に光を届ける”技”。(撮影:上田明)
吹き抜けで上から下に光を落とす”技”。

「日射熱利用暖房」とはその言葉の通り、冬に日射熱を室内に採り入れて暖房に使うという設計技術です。このときに重要になるのが、日射熱を取り入れる「集熱」、入った日射熱を逃がさないための「断熱」、入った日射熱を蓄えておく「蓄熱」の3つのデザインをしっかり考えることです。この3つが高いレベルで実現できれば、快適性と省エネルギー性が極めて高い建物になります。ただし、地域によっては日射熱利用暖房があまり効果的ではない場合があったり、敷地の南側に建物などがあると冬の日射が遮られ十分な集熱ができないため、事前の検討を行うことが重要です。

[POINT1

南側の窓を大きく取り、しっかり集熱する

POINT2]

パッシブ地域区分(PSP区分)による日射熱量暖房効果の判断

POINT3]

確実な集熱のために日当たりなど立地条件に関する事前の検討

「Passive-Design House」Passive Design Technical Forum刊 転載